
先日、クライアントである病院経営者様と共に、都内の医師人材紹介会社5社の本社を1日で一気に回ってきました。
「以前は訪問していたがコロナで中止となり、それっきりだ」
「今はWeb会議でも十分なのでは?」
そう、思われるかもしれません。
しかし、あえて貴重な時間を割いて本社へ足を運ぶのには、医師採用を成功させるための「明確な戦略」があります。
多くの病院が紹介会社に「依存」し、高い手数料を払いながらもミスマッチに悩まされています。今回は、私が同行訪問を通じて実践している、紹介会社の「目利き」のポイントを公開します。
紹介会社は「使う」ものではなく「見極める」もの
医師採用の現実 紹介会社は、病院の経営成長よりも「自社の成約(売上)」を優先する構造を持っています。だからこそ、経営者には「選ばれる」ための努力だけでなく、パートナーを「選ぶ眼力(目利き)」が求められます。
医師人材紹介会社経由の採用は「ガチャ」と揶揄されるほどミスマッチが多いのが実態です。年間247億円にもおよぶ紹介手数料(※)を超える巨大市場において、病院は紹介会社にとって「大切なお客様」であると同時に、格好の「収益源」でもあります。
彼らの言いなりにならず、我々が採用の主導権を得るためにも、まずこちらから「会いに行く」ことが第一歩となります。
(※厚労省「令和5年度職業紹介事業報告書の集計結果」参照)
あえて「本社」へ行く3つの戦略的理
1. 自院の「優先順位」を強制的に引き上げる
紹介会社のコンサルタントは、一人で数十、時には百以上の病院を担当しています。その中で、彼らはどの病院に良質な医師を優先的に紹介するでしょうか?
ここで、避けては通れない一つの現実があります。 それは、「紹介会社も営利企業であり、手数料が1円でも高額な病院を優先する」ということです。ビジネスである以上、売上効率を重視するのはある意味で当然の論理かもしれません。
しかし、本当に「お金(条件)」だけで全てが決まるのでしょうか? 私はそうは思いません。
なぜなら、コンサルタントも一人の「人間」だからです。
私が経営トップの同行訪問を強く勧める理由は、そこにあります。人事担当者が資料を届けるだけの訪問と、理事長や院長自らがわざわざ本社まで足を運ぶ訪問とでは、紹介会社側の受け止め方、そして「出席するメンバーの層」が劇的に異なります。
経営トップが自ら動くことで、紹介会社側の出席者が増えるのは、私のいままでの経験上高確率で事実となっています。実は、現場のコンサルタントたちは皆、「経営トップが何を考え、どんな未来を描いているのか」という生の声を聞きたいと渇望しているのです。
わざわざ時間を割いて会いに来てくれた経営者の顔、そして直接語られる熱い想いは、コンサルタントの記憶に深く、強く刻まれます。
「この理事長のためなら、良い先生を探してあげたい」
「この院長の情熱を、候補者の医師に届けたい」
そう思ってもらえた瞬間、自院の優先順位は、手数料という多寡を超えて上位へと強制的に引き上げられるのです。条件競争で勝てないのなら、「トップの熱量」という、他院が真似できない価値で勝負を仕掛ける。これこそが、本社訪問を行う真の狙いです。
2. Web画面では見えない「企業価値観」「社風」を肌で感じる
Web会議の画面越しでは、担当者の「言葉」は聞こえても、その背後にある「企業としての本質的な価値観」までは見えてきません。あえて本社を訪れる最大の理由は、そこに流れる空気感から、その会社が何を大切にしている組織なのかを直接確かめるためです。
- 医師を右から左に受け流して数値を追うだけの「営業会社」か、医師の人生・病院の将来に寄り添う「プロ集団」か?
- 作業をこなすだけの「コールセンター」のような空気か、活気に満ちた「チーム」か?
オフィスに入った瞬間の設備や内装の印象、オフィス全体の活気、すれ違うスタッフの挨拶、コンサルタントたちの所作や距離感。これらすべてが、その会社の「社風」という隠せない事実を物語っています。
実際、私がお連れしたクライアントの皆様からは、訪問後にこのような感想をいただくことが非常に多いです。
「いつもは電話やメールだけなので気が付かなかったし、Webで話してもどこも同じに見えたが、実際に行ってみると会社によって驚くほど雰囲気が違うことがわかった」
「担当者の所作や対応、スタッフ同士の距離感や連携を目の当たりにして、ここなら安心して任せられる(あるいは、ここは少し不安だ)と直感的に感じた」
組織の「質」は、その場に身を置くことで直感的に、そして明確に伝わってきます。医師に自院を勧めてもらうパートナーとして、その「価値観」が自院とフィットするかどうか。それを見極めるためのプロセスは、医師採用を成功させる上で欠かせないステップなのです。
3. 「担当者」ではなく「責任者」を味方につける
同行訪問の最大のメリットは、担当者の上司や、部門責任者に直接会えることです。 現場の担当者が異動や退職で変わっても、責任者とパイプがつながっていれば、長期的な信頼関係が構築できます。これは病院にとって、数百万の手数料以上の「資産」になります。
同行訪問の真の価値は、単なる挨拶に留まりません。それは、紹介会社側の「意思決定層」とのパイプを太くし、組織全体を動かすことにあります。
私が各社への訪問をセッティングする際、必ず徹底していることがあります。
それは、現場担当者だけでなく、「部門責任者やマネージャークラスの同席」を指名で依頼することです。
なぜ、あえて「上の人間」を引っ張り出す必要があるのか。そこには医師採用の現場における、切実な理由があります。
① 現場担当者の「流動性」というリスクを回避する
紹介会社の現場担当者は、転勤や退職、異動などで非常にサイクルが早く、入れ替わりが多いのが実態です。「ようやく信頼関係を築けた」と思った矢先に担当が変わり、またゼロから自院の理念や状況を説明し直し……という経験をお持ちの病院様も多いのではないでしょうか。組織の「長」や「マネージャークラス」と直接つながっておくことで、担当者が変わっても病院の背景や想いが断絶することなく、長期にわたる安定した協力体制を維持することが可能になります。
② トップダウンによる「情報の純度」の確保と「ミスマッチの防止」
現場担当者に伝えた情熱や細かなニュアンスが、社内で正しく、かつ同じ熱量で共有されるとは限りません。担当者のスキル次第ではそれらが異なって伝わってしまうリスクがあるのです。責任者クラスに直接、私たちの「採用の意思」や「求める人物像に対する価値観」、「現場コンサルタント向けのミスマッチを産まないポイント」を整理して伝え、そこから社内へトップダウンで情報をおろしてもらう。この流れを作ることで、情報の齟齬が最小限に抑えられ、紹介会社という組織全体を「本気」にさせることができるのです。
これこそが、成約にかかる手数料数百万円を遥かに凌駕する、病院にとっての「目に見えない強力な資産」となります。
プロが教える「紹介会社の見極め」4つのチェックポイント
1. 「病院の理念やビジョン」への関心度:彼らはどこでメモを取っていますか?
我々が自院の将来構想や理念を語っている最中、紹介会社の担当者がどこでメモを取っているかに注目してください。
- 疑わしい会社: 給与、当直回数、休日などの「条件面」の話になった瞬間だけ猛烈にメモを取る。
- 信頼できる会社: 「なぜこの診療科を強化したいのか」「5年後、地域でどのような役割を担いたいのか」といった、病院の「採用の意思」の部分に質問を重ね、真剣にメモを取る。
条件ばかりにメモが集中する会社は、医師に対しても「条件の切り売り」しかできません。それでは、理念に共感する医師の紹介を期待することは難しいでしょう。
2. 「病院担当者」と「医師担当者」の連携:社内に壁はありませんか?
大手の紹介会社では、病院側の窓口と医師側の窓口が分かれている「分業制」が多く見られます。
- ミスマッチを起こす会社: 彼らの情報共有が疎かで、医師に病院の魅力が正しく伝わっていない。結果として、面接時に「そんな話は聞いていない」というズレが生じます。
- 成功を生む会社: 社内で密に連携し、医師担当者が病院の雰囲気を自分の言葉で医師に語れるレベルまで情報を落とし込んでいる。
3. 「耳の痛い真実」を提言する勇気:プロとしての見解があるか?
病院側の要望に対して、常に「はい、分かりました」と応じる会社は要注意です。
- 「その条件では、弊社では正直1人も登録がありません」
- 「この部分の条件を◯◯に変更すれば、ターゲット層のリーチを増やすことができます」
- 「先生のご希望と貴院の今の体制では、入職後に必ずトラブルになります」
このように、成約(売上)を逃すリスクを負ってでも、プロとして「NO」や「改善案」をはっきり言ってくれる会社こそが、真の信頼に値します。
4. 成約後のフォロー体制:彼らのゴールはどこにありますか?
「入職=ゴール」と考えている会社は、紹介手数料を手にしたらそれっきりです。
- 入職1ヶ月後、3ヶ月後に医師と面談をしているか?
- 現場での悩みやギャップを吸い上げ、病院側にフィードバックしているか?
入職後の「定着」を自分たちの責任として捉えているかどうかが、目利きの最終判断基準です。
【重要】合わない会社とは「契約を解除する」勇気を持つ
多くの病院が陥る罠が、「一度契約したから、そのままにしている」という状態です。
紹介会社が増えすぎると、事務方の管理コストが増大するだけでなく、情報の質が低下します。
- レスポンスが遅い
- 的外れな医師ばかり提案してくる
- 条件交渉が強引で、病院の利益を考えていない
こうした会社とは、思い切って契約を解除し、紹介会社を「整理・淘汰」することが非常に重要です。
過去の投稿でも何度も申し上げていますが、「数」ではなく「質」のマネジメントこそが、医師が集まる病院を作るための最短ルートなのです。
まとめ:「依存」から「自立」したパートナーシップへ
医師採用を「紹介会社任せ」にするのは、もう終わりにしましょう。 紹介会社を「単なる業者」として扱うのではなく、こちらの熱量を伝え、彼らを「自立したパートナー」として巻き込んでいく。
本社への訪問は、そのための最も泥臭く、かつ最も効果的な投資です。
医師が集まる病院を作るために、まずは紹介会社の「目利き」から始めてみてください。
もし「どの会社を回ればいいか分からない」「どう交渉すべきか」と迷われた際は、いつでも私にご相談いただけると幸いです。
この記事を書いた人

医師採用家® 紀平浩幸
株式会社ケイツーブレインズ 代表取締役
18年間の病院人事経験を持ち、延べ2,000人以上の医師・医学生と面談し約400人の常勤医師を自力採用。
全国45の医療機関で正しい医師の採用方法を教える、医師採用コンサルティングを展開中。