
「最新の設備を揃え、年収も相場より高く提示して、理事長が直々に何度も口説いているのに、なぜ医師が来てくれないのか?」
病院経営者や採用担当者の皆様、このような悩みを抱えていませんか?
実は、医師採用がうまくいかない原因の多くは、病院側の「売り込み」にあります。
医師が最終的に求めているのは、設備でも給与でもなく、「ここなら自分の人生(未来)が良くなる」という確信なのです。
今回は、私が2,000人以上の医師面接を通じて体系化した、ミスマッチを無くし「欲しい医師」に選ばれるためのシナリオ設計術「PSRメソッド」の概要を解説します。
採用とは、病院を売り込むことではない
採用の本質 :
採用活動とは、条件を並べて「来てください」とお願いすることではなく、「医師に選ばれる理由」を設計する行為である。
「なぜ、数ある病院の中から、貴院を選ぶ必要があるのか?」
この問いに、医師の心の中で明確な答えを出せなければ採用は成功しません。
医師が動くのは、スペックが高いからではありません。
「自分の未来がここにある」と確信した瞬間に、心は動くのです。
なぜ、あなたの「口説き」は医師に響かないのか?
多くの病院で、経営者の「想い」と医師の「本音」に大きなズレが生じています。
ダメな採用(積極売り込み型)と選ばれる採用(共同設計型)を比較してみました。
| ✕ ダメな採用(積極売り込み型) | ◯ 選ばれる採用(共同設計型) |
|---|---|
| 自院の強み(商品説明)だけに終始しているケースです。 ・「最新のロボット手術があります」(機能説明) ・「必ず年収2,000万円出せます」(条件提示) ・「症例数が地域No.1です」(実績誇示) ・「ぜひきてください!」(根拠無いガッツキ) 医師の心の声: 「すごいですね。 (でも、今の僕の悩みには直接関係ないかな…..なんかグイグイきてるけど、本当にこの病院大丈夫なんだろうか…..)」 | まずは医師のキャリアの希望や悩みをとことん聞き出し、そのうえで病院がどう解決できるか、を語るスタンスです。 プロの医師採用家は、志望動機すら聞きません。 面接を重ねることで、医師といっしょに「作りあげる」もの、まさに「未来に向けた共同設計」が大切になってきます。 そしてその結果、志望度も上がっていくのです。 |
「就職したくなる流れ」を作る技術:PSRメソッド
面接や見学のシナリオを、以下の3ステップ(P・S・R)で組み立ててみましょう。
単なる「勧誘」が「最高のキャリア提案」に変わります。
医師自身も気づいていない、人生の「不安・不満」を掘り起こします。
- 例:「医局には守られているが、このままで専門医として独り立ちできるか不安……」
- 例:「激務で家族と過ごす時間がない。でも臨床の第一線は退きたくない」
その課題を、貴院の環境でどう解決できるかを具体的に提案します。
- 例:「当院なら指導医のマンツーマン体制があり、悪性腫瘍手術の執刀数が確約できます」
- 例:「週3日勤務で常勤扱いができるので、オンオフを切り替えつつ急性期に携われます」
入職後の「理想の姿」を具体的にイメージさせます。
- 例:「2年後、先生は胸部大動脈手術を独り立ちで行えるようになっています」
- 例:「毎日家族と夕食を囲みながら、『いい仕事をしている』と胸を張れる毎日になります」
- 例:「センター長として、この地域の医療インフラの変革を一緒にみることができます」
PSRメソッドを実践する3つのステップ
面接は「見極め」ではなく「深掘り」の場です。
- NG:「当直やオンコールはどれくらいできますか?」(単なる条件確認)
- OK:「今の働き方で、5年後も続けていけるイメージはありますか?何が一番のネックですか?」
「ウチはここが凄い(機能)」ではなく、「ウチなら先生の悩みがこう解決される(利益)」を伝えます。より具体的に、かつロジカルに説明することで、「この人は私のキャリアを本気で考えてくれている」という信頼が生まれます。
人は「未来に希望が持てたとき」にのみ、決断します。
- 数字の未来:「3年で技術認定医が取れる」
- 感情の未来:「医局のしがらみや雑用から解放され、患者だけに集中できる」
- 自己実現の未来:「新センターの設立と運用の一切をお任せしたい」
まとめ:採用とは「医師と一緒に未来を創ること」
本当に優れた採用担当者とは、「一方的な想い」「高額な給与」等のスペックだけで引っ張る人ではありません。
医師に「ここでなら、本当に自分の人生が良くなる」という確信を持たせられる人です。
あなたの提案を単なる「お願い」「強みだけの提示」から、医師の人生を変える「感動を生むオファー」へと変えていきましょう。
まずは次の面接で、病院の話を始める前に、「目の前の医師の悩み(人生)」にフォーカスすることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人

医師採用家® 紀平浩幸
株式会社ケイツーブレインズ 代表取締役
18年間の病院人事経験を持ち、延べ2,000人以上の医師・医学生と面談し約400人の常勤医師を自力採用。
全国45の医療機関で正しい医師の採用方法を教える、医師採用コンサルティングを展開中。