第67回全日本病院学会in埼玉 ランチョンセミナー 演者インタビュー
本記事は、2026年9月13日(日)開催の共催ランチョンセミナー「『医師が自ら集まる病院』を作るには」に登壇される、医療法人松田会 松田病院 事務部長・佐竹直也氏へのインタビューです。セミナーに先立ち、その実践の一端をお届けします。
宮城県仙台市に、125床で、常勤医33名という病院があります。医療法人松田会・松田病院。
多くの病院が「医師をどう集めるか」に悩むこの時代に、この病院はその問題を3年で解決し、次の課題に移ろうとしています。
きっかけは、紹介会社でも、豪華な採用サイトでもありません。自分で作った採用サイトでした。手作り感は否めませんが、その内容は採用の本質を突くものでした。
2026年5月、その事務部長は日本医療マネジメント学会の演台に立ち、採用の「歩留まり」から投資額まで、病院が普通は出さない数字を公開しました。発表の最後のスライドに、こうありました。
「採用は買うものではなく、育てるもの」
その3年を、医療法人松田会の佐竹直也さんに伺いました。
松田病院 125床・常勤医33名(2026年8月時点)
2023年10月〜2026年5月:直接問い合わせ 14件 → カジュアル面談 7件 → 見学・スポット勤務 → 採用 3名
継続フォロー中 2名/紹介会社経由の採用 0件/全員定着中(離職率0%)
※実績値は第28回日本医療マネジメント学会学術総会(2026年5月29日)佐竹様ご発表資料より
1. もったいない病院だった
佐竹さん、まずは正直な話から始めさせてください。私が初めて松田病院を訪問したとき、最初に思ったのは、「もったいない!」でした。
中身が、強いんですよ。仙台は東京から新幹線90分で名古屋へ行くよりも早い、病院は高級住宅街のどまんなか。スタッフの雰囲気も良く働きやすそう。それでいて整形外科の年間全身麻酔手術は1200例でロボット手術makoも使っている。当直なし。平均残業時間20時間以下。常勤医局は全室個室。職員食堂のメニューも豊富で安い。学閥なし。で、お子さんの教育環境もいい。──医師が働く場所として、これだけ揃っている病院は、そうありません。
ありがとうございます。ただ当時は、それを外に向けて言えていませんでした。法人のサイトはありましたが、医師向けの情報は、ほとんどなかったんです。採用は紹介会社頼みで、それが当たり前の文化でした。正直、外からどう見えているかを、考えたことがなかったんです。
中の人には当たり前すぎて、言葉になっていなかった。──世の中には、こういう病院が、実はたくさんあります。中身は良いのに、外から見えない。どんなに良い病院でも、言葉にして届けなければ、「転職市場では、存在しない病院」になってしまうのです。
2. 「言語化した瞬間から、採用は変わる」
2023年の10月、松田会は医師採用の内製化に踏み切られました。最初にやったのは、サイト作りではありません。ペルソナです。院長も、看護部長も入れて、経営幹部で「どんな医師に来てほしいか」を徹底的に言葉にしていきました。
そこを飛ばすと、あとが全部ずれると思っていました。一番難しかったのは、「誰でもいいので来てほしい」と言いたくなるのを、我慢することでした。
出来上がった医師像が、具体的なのです。ご発表のスライドから、そのまま引かせてください。訪問診療医師のペルソナに、こうあります。
外科医だがメスを置いて新たなフィールドで活躍したい/がん診療に関わっていた医師/仙台市へU・Iターンを希望している医師
佐竹様ご発表資料(2026年5月29日)より
「訪問診療の医師、募集」では、ないのです。どんな過去を持った先生が、うちに来て幸せになるかまで、書いています。
「外科医だがメスを置いて」は、議論の中で自然に出てきた言葉です。実際に、そういう先生に来てほしいという実感が、院内にありましたから。
ご発表の考察に、「求める医師像を言語化した瞬間から、採用は変わる」とありました。あの一行は、心構えの話ではなく、実務の順番の話なのですね。
はい。言葉ができてから、サイトです。逆では作れません。
3. 事務部長、Wixを開く
申し上げておきますと、この取り組みには2023年10月から、弊社が伴走しています。──ただ、ここからが、この話のいちばん面白いところなのです。採用サイトを作ったのは、制作会社でも、弊社でもありません。佐竹さんご自身です。Wixという、無料のツールで。
スピードと、修正の速さです。言葉が固まった熱のあるうちに、形にしたかった。外注すると、見積もりと打ち合わせだけで数ヶ月かかります。それに、自分で作れば、明日、直せます。
初代・佐竹さん自作の採用サイト(現在は公開終了)
これが、当時のサイトです。正直に申し上げて、リッチなサイトでは、ありません。手作り感満載の、温かみのあるサイトでしたよね。
ですが──中身が、とても良かったのです。トップに「そうだ、仙台で暮らそう」。学閥フリー。個室の医局には「一人になりたいときもありますよね」。LINEの登録ボタンの横には「しつこい連絡はありませんので、お気軽に登録ください」。──デザインは素朴でも、一行一行が、医師の内心に、まっすぐ刺さる言葉でした。
先生方が一番警戒しているところから、書きました。実際、LINEの最初の一通は、当直の有無や勤務時間など、素朴なご質問がほとんどです。電話やメールより、心理的なハードルが低いのだと思います。
成果が出て、載せたい情報が増えてきたので、この7月に全面リニューアルしました。見栄えを整えたのは、本当に最後です。順番が逆なんです。
その、リニューアルされたサイトが、こちらです。──ご覧いただくと、お分かりになります。あの「そうだ、仙台で暮らそう」が、いまも、いちばん上にあるのです。デザインは変わりました。載せている情報も、増えました。ですが、言葉だけは、最初から一度も、変わっていません。
MATSUDAKAI | RECRUIT SITE
医療法人松田会グループ 医師採用サイト
宮城県仙台市泉区/松田病院・エバーグリーン病院 常勤医師募集
「そうだ、仙台で暮らそう。」を見る →
先に言葉、次に実績、最後に見栄え。──多くの病院は、この順番を、逆から始めるんですよ。もうひとつ、誤解のないように申し上げておきます。この採用サイト、放っておいて医師が来たわけではありません。届けるところには、お金をかけている。Googleのリスティング広告です。
サイトの制作費はかけませんでしたが、広告には月3万円ほど、継続的にかけています。
ご発表の解析画面では、月間およそ1,000人の訪問の、大半が広告経由でした。──ここに、この取り組みの設計思想が出ているのです。お金をかけなかったのは、見栄え。かけたのは、届けること。
逆にすると、失敗すると思います。きれいなだけのサイトを作っても、誰にも届きませんから。
4. 半分しか、進めない
そして、来た問い合わせを、全部は追わなかった。14件のうち、カジュアル面談に進んだのは7件。半分です。
進まなかった案件は、こちらから丁寧にお断りしたケースと、先生の側で立ち消えになったケースの、両方があります。お断りする基準は、ペルソナに戻るだけです。条件のお話しか出てこない場合は、長くは続かないと思っています。
その分、進んだ先生には、とことん時間をかけていますよね。Zoom面談、見学──資料には「双方不明な点はとことん質問します」とありました──スポット勤務での多職種評価、食事会、理事面談。その数は7段階にもおよびます。
スポット勤務の日は、一緒に働いた看護師やリハビリのスタッフに、率直な感想を聞きます。現場は、面接よりも正直です。
紹介会社経由で入職した医師の6ヶ月以内離職率は、約19%と言われています。5人に1人。松田病院の直接採用3名は、全員定着。0%です。入り口で言葉を尽くし、時間をかけた分が、そのまま定着率に出ていますね。
ミスマッチは、入り口でしか潰せないと思っています。
5. 課題が、変わった
それで、いまの松田病院です。冒頭の数字に戻ります。125床に、常勤医33名。──これは、200床近い病院に匹敵する医師数です。
自分たちでも、少し出来すぎだと思っています。おかげさまで、医師数は充足しました。
医師不足の時代に、「充足」という言葉を使える病院。──3年前、ホームページに強みが一行も書かれていなかった病院が、です。
贅沢な話ですが、課題が変わりました。「どう集めるか」ではなく、「この陣容で、何をやるか」です。これまでは予定された手術・入院が中心でしたが、この体制なら、急なご紹介や予定外の入院にも応えられます。地域の「困った」を断らない病院に、近づけるはずです。
そして、伺うところでは──いまは、医師の先生方からのご紹介で、次の先生のお話が動き始めているそうですね。
ありがたいことに、最近は医師の先生方から、ご紹介のお話をいただくようになりました。詳細は控えますが、この3年で、一番嬉しい変化です。
医師が、医師を呼ぶ。リファーラル採用──「医師が自ら集まる病院」の、これが醍醐味です。もし、3名を紹介会社経由で採用していたら、手数料は約1,500万円。実際の投資は約600万円。差し引き約885万円。ですが、残ったのはお金だけではありません。ご発表の言葉で言えば──「+採用ノウハウの蓄積」です。
一番しんどかったのは、最初の数ヶ月です。問い合わせゼロの日が続いて、広告費だけが出ていく。「地方の小規模病院で本当に来るのか」と、正直思いました。──残ったのは、ノウハウというより、「自分たちで採れる」という自信だと思います。
※投資額 約600万円には、広告費、サイト運用費、弊社への支援費用を含みます。
6. 集める力の、次に来るもの
最後に、これからの話を伺います。今年に入って、変化を感じておられるそうですね。
人材会社さんからのご連絡が、去年と比べて明らかに増えました。市場で、医師の動きが活発になっている実感があります。
動きが増えるほど、病院側に問われるものが変わります。
はい。これからの病院に要るのは、集める力の、その次──見極める力だと思っています。病院が、ちゃんと目利きできるようになること。
ここで、また一つ正直な話をさせてください。私は全国の病院で、「構造化面接」をお伝えしています。評価する項目を先に決めて、どの先生にも、同じ問いを、同じ順番で聞く面接です。ただ、これを自分のものにして、実際に回せている方は、ほとんどいません。佐竹さんは、その数少ないお一人です。
教わった通りに、やっているだけですよ。スポット勤務の多職種評価も、あの延長ですし。やはり大事な採用のときに面接を構造化しておかないと、自分が聞きたいことだけを聞いてしまったり、大事な視点が抜けてしまったりする可能性が高いと思っています。
同じ条件で、同じ問いを重ねていくと、あるとき、答えの「ズレ」が浮かびます。胸の奥で小さく鳴る、「あれ?」という違和感。──実は、あれこそが、ミスマッチの原因であり、温床なんです。入職後に起きる問題は、たいてい、面接のあの瞬間に、一度表に出ているのです。
分かります。経歴の良い先生ほど、つい流したくなるんですよね、あの「あれ?」を。病院としては、医師を採用しないと診療に穴が開いてしまいますから、どうしても採りたい。そうすると、小さな違和感を見ないふりをしたり、見逃したりしてしまう。それが、採用したあとに「非常に困ったこと」を引き起こすこともあると思います。
構造化面接そのものは、やり方さえ知れば、誰にでも再現可能です。ただ、本当に大事なのは、その先です。同じ項目を、同じ順番で聞く。だからこそ、先生ごとのズレが、くっきりと浮かび上がる。そのズレを、見逃さずに掴まえられるかどうか。──そこが、構造化面接の鍵であり、目利きの鍵なのだと思います。その実際は、9月13日に、私たちが話すことの核心です。
これから始める病院への、最初の一歩も添えておきます。ペルソナです。お金は、かかりません。院長と、看護部長と、事務の責任者を含めた多職種で、「どんな医師に来てほしいか」を一枚に書き出す。サイトは、その後でいい。無料ツールでも作れることは、佐竹さんが証明済みです。
言葉が本物なら、医師は来る。
そして集めたあとには、「見極める」という次の課題が待っている。──その先の話を、会場でお聞きください。
2026年9月13日(日)|第67回全日本病院学会 in 埼玉 共催ランチョンセミナー
「どう集めるか」の、その先──診療科ごとの優先順位のつけ方、そして「目利き」の実際。続きは、9月13日(日)の第67回全日本病院学会 ランチョンセミナーで、佐竹さんご自身が話されます。
一宮西病院(愛知県一宮市)の前田昌亮さん、利根中央病院(群馬県沼田市)の丸山和希さんにもご登壇いただきます。申込締切は7月28日(火)、220席・参加無料です。
の後ろに追記
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